魂の旅、食と誰かと、時々珈琲。

人生は旅。食と珈琲を好んでいる一介の主婦が日々を綴ります。

三宮呑み/ジャズ喫茶・木馬

 いい感じに酔った私たちは、ふと「木馬に行こう」とどちらともなく提案をした。「木馬」それは、私の夫が若い頃に通っていたジャズ喫茶である。

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ジャズ喫茶・木馬の入り口に続く階段


初めて私が来たときには、壁いっぱいに有名人がサインを残していたのを見て驚きを隠せなかった。私の大好きな小川洋子女史もいらしていたなんて。
 さて、店内に入ると、何やらスパイシーな香りが漂ってくる。誰かがこの店のカレーを食したに違いない。ここのカレーはベジタブル・カレー(800円)とハーブチキンの野菜カレー(880円)がある。どちらも私は食べたことはないが、いつかは……と思っている。
 ピアノの前に据え付けられた半月型の禁煙席に通された。ここならフードを頼んでもかさばらないだろう。

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テーブルにはキャンドルが置いてある。静かな温かみのある明るさ。


さあ、何を頼もうか、というところで私は迷ってしまう。ここではワインがデカンタで赤・白ともに500ml1,600円で呑める。一方、ケーキセットは750~780円で珈琲・カフェオレ・紅茶付きを選んで頼める。さらに酔いに走るか、それともここで立ち止まるか……。
 結局、赤ワインのデカンタを二人でシェアすることを選択した。つまり、このブログの原文は呑みながら書いていた、というわけだ。

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デカンタニワトリ。後に夫と会話することになる(?)


夫は「いい文章が書けましたか?」と、まるでどこぞの編集者のような口調で聞いてくる。途中ながらも書いていたものを見てもらい感想やら直しやらを請うと、「こんなに呑んだっけ?」「この書き方は僕は好きじゃないな、翻訳したみたいだ」と返ってくる。私は文学部出身の彼の意見と自身の感性を信じて文章を直す。
 それから「なにかつまもう」とポテトチップス(300円)を頼み、ワインをぐいっと飲み干し、グラスに注ぎ込む。そして書く。

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これはジャガイモの粉から作っているタイプだろう。



 店内にはジャズが流れ、それに負けずとばかりにそれぞれのテーブルについている客が、思い思いの会話を楽しんでいる。ウエイトレスは注文どおりに珈琲やフードを出し、時には客と会話したりと忙しそうだ。そんな縁の下の力持ちのおかげで、私たちはゆったりとした時間を過ごせているのだけれど。
 「貴方は何杯呑んだ?私はこれで三杯目だけど」「わかんない。同じくらいじゃない?」そんな酔いどれの会話がサラリーマンの笑い声にかき消される。私は会話を諦め、ポテトチップスをつまみ口に放り込み、咀嚼しながら塩味を味わい、それから赤ワインの渋みを恋しがり、そっとグラスを傾けた。
 新しい客、男女二人連れが入ってきた。カウンター席へと通されるのを見ながら、夫は「今日は満員御礼だねぇ」と呟いた。そして彼は空になったデカンタニワトリに話しかけていたので、私は空になった彼のグラスと半分中身が残った自分のグラスを交換する。
 さて、今日はここでは終わりはしないようだ。私は次の日の予定を気にしながら、夫の友人が経営しているバーへと足を運ぶ覚悟を決めた。

 

 それからどうなったのかというと、バーですっかり酔っ払った夫が家でいびきをかき続ける中、私はブログをせっせと書いていたのでした。